錫は錆びない金属だという話を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。だからこそ錫器は金の装飾品や銀の食器のように重宝されているとよく言われています。
確かに金や銀は空気中で安定でほとんど錆びることはありません。ただ、それならなぜ錫器が金や銀のように広く流通する高貴な金属として重宝されていないのでしょうか。
錫が本当に錆びないのなら安定な金属として錫器以外にも用いられてきてもおかしくありません。ここでは錫が錆びないという噂についての「ウソほんと」をわかりやすくご説明します。
錫は錆びない金属と言われてきた
錫は歴史的に見ても錆びない金属と言われてきています。錫は錆びないという表記はいたるところにあって枚挙にいとまがありません。国語辞典や百科事典にも錆びないという表記が見られることがあるほど、当たり前のことのようになっています。
錫器に関連する記念館や錫器のメーカーでも錆びなくて安心な金属という文句で宣伝をしていることも多いのがスズです。錫は腐食することがなく、鉄や銅のように害のあるものを生み出さないという考え方もあり、そのため、錫器は食器としても使用されるようになり、天皇のように非常に高貴な身分の貴族が利用していました。
錫も鉄や銅などと同様に錆びる
錆びないと言われる錫 (スズ) ですが、結論としては錫(スズ)は錆びます。鉄よりは錆びにくいですが、銅に比べると錆びやすい金属です。当然ながら金や銀、プラチナなどの貴金属よりも錆びやすいので、錫器は自然に錆びていくものだと考えた方が良いでしょう。
この点についてもう少し詳しく掘り下げて説明していきます。
錫は科学的に考えると錆びる
理科の教科書や化学辞書などを見てみると、スズは空気中で酸化を受けると書かれています。空気中で錆びるかどうかは科学的に考えてみると実は明らかです。
少し難しい話になりますが、金属にはイオン化傾向と言われる酸化還元の受けやすさに関する固有の性質を持っています。イオン化傾向が高いほど酸化されやすいと言い換えても良いでしょう。
金はよく知られている金属の中では突出してイオン化傾向が低く、空気中でほとんど酸化されません。
逆にカルシウムやカリウムはあまりにも速やかに酸化されてしまうので、空気中ではほぼ単体の金属としては存在できません。 身近にある金属はイオン化傾向があまり高くないので錆びにくい性質があります。優劣を付けると以下のようになっています。
アルミ>亜鉛>鉄>スズ>鉛>銅>銀>金
つまり、錫器は鉄器よりマシでも、銅器よりは錆びます。錫は錆びないというのは実は誤解なのです。しかし、はるか昔に作られた錫器も光沢が鈍っているくらいで錫らしい姿で出土しています。
なぜ錆びていないのでしょうか。
錫が錆びないと言われてきたわけ
実は昔に作られた錫器は錆びていないわけではありません。錆びていてもあまりよくわからないのです。錫が錆びないと言われてきたわけは2つありますが、その1つとして特に大きいのが錆びても人の目では非常にわかりにくいからです。
鉄は錆びると赤サビが発生するのはよく知られています。鉄を主成分とする合金のステンレスでも鉄の赤サビで変色するとはっきりと錆びたとわかるでしょう。銅の場合には緑青が良く知られていて、緑色から青色の錆が発生します。
しかし、錫が錆びても色が変わることはありません。錫が酸化されてできる酸化錫は無色なので人の目では錆びたと判断できないのです。さらに、酸化鉄や酸化銅と違って食味にもほとんど影響がないため、たとえ錫製の食器や酒器が酸化されていても感じ取れず、スズが錆びたと思うことがないのです。
もう1つの理由は錆びにくいために錫器が貴重なものとして扱われてきたからです。鉄器や銅器も空気中の酸素による腐食を受けて錆びていきます。
しかし、丁寧に手入れをしていれば錆びてみすぼらしい姿になることはありません。錫器は貴重な装飾品や食器として用いられてきたため、他の金属が用いられているものよりも丁重に扱われてきました。そのため、金や銀に劣らず錆びにくい金属という認識が広まっていたのです。
錆びても特に害はないのも事実
スズが錆びるものだとわかると不安が出てきた方もいらっしゃるでしょう。しかし、錫が酸化されてできる酸化スズの安全性についてはデータがたくさんあるので安心です。
化粧品原料としても酸化スズは用いられてきています。皮膚刺激性だけでなく、刺激に弱い繊細な器官の「眼」にすら刺激がほとんどないことがわかっています。錆びても特に害がないので錫は安心な金属なのです。
錫器が長年にわたって食器や酒器として用いられてきた点からも、確かに安全だと言うことができるでしょう。錫器は金銀の製品と同様にいつまでも安心して使える魅力があります。
長期間すると変色や錆びの原因となる
錫は錆びにくいのは確かですが、錆びる金属だということもご理解いただけたでしょう。古い時代に作られた錫器の光沢が褪せてきてしまっているのは、酸化スズの層が厚くなってきてしまったからです。
長期間にわたる酸化を受けると変色してきてしまうこともあります。ここで変色や錆びが起こりやすくなる原因についても知っておきましょう。
錫器は酸性やアルカリ性に弱い
錫器は酸性やアルカリ性になると変質しやすい性質があります。強い酸にさらされると錆びたり溶けたりしやすく、アルカリ性の場合にも溶けてしまうことがあるので注意が必要です。
強アルカリ性の洗剤を使用すると変質の原因になります。色が付いてきてしまったから漂白剤で落とそうとするのも厳禁で、かえって錆びによって色合いが変わったり、光沢が失われてしまうことになるので気を付けましょう。
錫器を使うときには食べ物や飲み物に酸性のものがたくさんある点にも注意した方が良いでしょう。すっぱいものはほとんど酸性なので、あまり錫器との相性は良くありません。
近年流行しているお酢を飲むのに錫器を使っていると錆びてきてしまって美しさが損なわれてしまう可能性があります。十分に薄めればあまり影響はありませんが、長い時間、酢を入れていると変色してきてしまいます。錆びによるが起こりやすいので酢の物などにも錫器を使うのは避けるのがおすすめです。
きれいに洗わないと色が変わりやすくなる
錆びが必ずしも原因ではありませんが、きれいに洗わないと色が変わりやすくなります。陶磁器でも緑茶の茶渋がついてきてしまったり、紅茶やコーヒーの色による着色が起こるでしょう。
ステンレスや銅などの食器の場合にも同様に色素の沈着はよく起こります。さらにステンレスや銅の場合にはオレンジジュースや黒酢などを入れたままにしたり、飲み干した後に放置したりしたのが原因で瞬く間に錆びることもあります。
錫器も同様できれいに洗わないと色素が付着して落ちにくくなる、錆びて色あせるといったことが起こるので気を付けましょう。錫器を使った後にはすぐにきれいに洗うようにするのが大切です。
古代の人たちが錫は不変のものという認識をしていたのは貴重なものだという認識を持って普段から丁重に扱っていたからです。お手入れを怠ってしまうと魅力が下がってきてしまうことがあるという認識は持っておきましょう。
初めての錫製品はお手入れを少し意識して
錫器をこれから初めて手にするときには、錫は錆びると聞いて不安が出てきてしまったかもしれません。お手入れをしないと錆びやすくなり、変色も起こるリスクが高くなるのは紛れもない事実です。ただ、錫は錆びにくい金属なので、鉄などのように簡単に錆びてもう使えないというようなひどい状況になることはありません。
錫は錆びないから手入れをしなくても大丈夫という誤解をしないのが何よりも大切です。錫器のお手入れは中性洗剤で洗うなどの簡単なものなので、特に意識しなくても大丈夫なことも多いのです。
変色してきてしまったとしても腐食を受けたわけではなく、歯磨き粉で磨くくらいできれいに落ちることがほとんどです。初めて錫製品を扱うときにはお手入れをちょっとだけ意識してみてください。何も手入れをしないと銀も黒ずみができますし、金も汚れが目立つようになります。
同じように錫器もちょっとした手入れをすればいつまでも美しい姿を見せてくれます。
詳しいお手入れの仕方は以下のコンテンツで紹介していますので、気になった際にはぜひご参照ください。エテナを美しく保つための基本的なポイントをご理解いただけると思います。
まとめ
錫は錆びない金属と言われてきて信じていた方もいるのではないでしょうか。実際には錫は錆びてしまうものです。
ただ、鉄やアルミなどに比べると錆びにくい金属なのできちんと手入れをしていればほとんど錆びることはありません。錆びてできる酸化スズも化粧品原料として用いられているくらいなので安全性が高く、食味にも影響しないことからあまり気にしなくても問題ありません。
普段からちょっと気遣いをするだけで錫器は輝かしい姿を保ち続けてくれます。エテナの光沢は他の錫器にはない魅力的なポイントなので、ぜひお手入れをして美しさを守っていただければ幸いです。
もし変色や光沢の褪せが気になった際には丁寧に磨かせていただきますのでお申しつけください。いつまでもエテナを愛でて下さるように最善のサポートをしていきます。